マルキ・ド・サドを読む:第一部『ソドムの百二十日』EP.04(2026-09-20 22:52) | 真性痴女ハードコアコネクション グランブルー厚木のSM店日記一覧

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2026-09-20 22:52マルキ・ド・サドを読む:第一部『ソドムの百二十日』EP.04

マルキ・ド・サドを読む:第一部『ソドムの百二十日』EP.04
■深夜二時、地図の広げられた閲覧机で

司書は今夜、石の部屋の片隅に置かれた、古い木製の閲覧机へと、私を導いた。机の上には、山岳地帯を描いた、色褪せた古地図が広げられている。前夜、バスティーユという現実の監獄について語られたばかりの私にとって、今夜また新たな「閉じられた場所」の話が始まるという予感は、どこか必然のようにも感じられた。

「前夜、私たちはバスティーユという、現実の閉鎖空間について語りました」と司書は静かに言った。「今夜は、作品そのものの内部に描かれた、もう一つの閉鎖空間へと、足を踏み入れていきましょう」司書は地図の上、深い山々に囲まれた一点を、指先でそっと示した。「シリング城。この作品の物語すべてが展開する、外界から完全に切り離された舞台です」


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episode.4 「城館という“閉じた世界”」
※2026年09月20日22時55分【Livedoor、Ameba、FC2初稿】
※2026年09月20日22時22分【note有料投稿】


■第一章:地図の上に存在しない城

司書は地図の上に指を這わせながら、静かに語り始めた。「物語の舞台として設定されているシリング城は、黒い森の奥深く、雪に閉ざされた山岳地帯に位置しているとされています。しかし、実際にはこの場所は、現実の地理に正確に対応するものではありません。サドは、実在の地名を借りながらも、極めて意図的に、現実の地図からは切り離された、いわば架空の閉域として、この舞台を構築しているのです」

私は、なぜこのような、実在するようでいて実在しない、曖昧な地理設定が選ばれたのかを、あらためて尋ねてみた。司書は少し考えてから答えた。

「もし現実に存在する具体的な地名を、そのまま舞台に用いていたならば、読者はその土地にまつわる既存のイメージに、どうしても引きずられてしまうでしょう。サドが求めていたのは、そうした既存の連想から完全に自由な、まっさらな実験空間でした。地図の上には存在しない城だからこそ、そこで展開される出来事は、特定の歴史や地域性から切り離された、より普遍的な問いとして、読者に届けられることになるのです」

私は、この地理的な曖昧さが、どのような意味を持っているのかを尋ねた。

「良い問いですね。現実の場所を正確に特定できないということは、読者にとって、この城館を、どこか特定の実在の場所として距離を取って眺めることを、困難にします。むしろ、それは、どこでもあり得る、しかしどこにも実在しない、一つの純粋に観念的な実験空間として、読者の前に立ち現れることになるのです」司書は地図を、そっと閉じた。「重要なのは、この城が、単なる舞台装置以上の意味を持っているという点です。物語が始まる前に、登場人物たちは、周到な準備のもとに、外界とのあらゆる接続を、意図的に断ち切っていきます。橋は落とされ、食料は厳重に管理され、脱出の可能性は、あらかじめ徹底的に排除されているのです」

私は、この物語冒頭に置かれた、周到な準備の描写そのものが、読者にどのような心理的な効果をもたらすのかを尋ねてみた。

「面白い視点ですね。この準備の描写を丁寧に読み進めることによって、読者もまた、登場人物たちと共に、外界から切り離されていく過程を、疑似的に体験することになります。橋が落とされる瞬間、読者の意識の中でも、現実世界へとつながる最後の糸が、静かに断ち切られていく。この没入の演出こそが、後に続く物語を、単なる絵空事としてではなく、閉ざされた空間の内部で確かに進行している出来事として、読者に受け止めさせるための、周到な仕掛けなのです」

■第二章:隔絶という手続きの周到さ

私は、この隔絶の手続きが、なぜこれほどまでに詳細に描かれているのかを尋ねた。司書は、机の引き出しから、古い建築図面のような紙片を取り出した。

「この作品を読む上で、見落とされがちな重要な点があります」と司書は言った。「サドは、登場人物たちが城に入るまでの経緯、そして城が完全に外界から切り離されるまでの過程を、驚くほど几帳面に、まるで実務書のような筆致で記述しているのです」

私は、この几帳面さが、前々夜に論じられた「分類」という主題と、どのように結びついているのかを尋ねてみた。

「鋭いつながりですね。前々夜、私たちは、この作品全体を貫く、分類し記録するという知的な衝動について論じました。この隔絶の手続きの詳細な描写もまた、まさにその衝動の一部なのです。物資の在庫、人員の配置、外界との接続を断つための具体的な手順。これらすべてが、まるで一つの巨大な実験を準備する科学者の手記のように、正確に、そして冷徹に記録されていきます」司書は図面をそっと机に置いた。「この周到さは、単なる物語上の説明にとどまりません。むしろ、これから展開される出来事が、偶発的な暴走ではなく、あらかじめ入念に計画された、一つの体系だった実験であることを、読者に強く印象づける機能を果たしているのです」

私は、この計画性という要素が、物語全体の性格を、どのように規定しているのかを、さらに尋ねた。

「この周到な準備の描写があるからこそ、後に展開される出来事は、単なる無秩序な狂乱としてではなく、むしろ、極めて統制された、一種の疑似科学的な実験として、読者の前に提示されることになります。この統制と過激さとの奇妙な同居こそが、この作品が持つ、独特の不気味さの源泉なのだと、私は考えています」

私は、この統制という視点を、さらに掘り下げて尋ねた。統制されているからこそ、かえって恐ろしく感じられるという逆説は、他の文学作品にも見られる現象なのだろうか、と。

「良い着眼点です。恐怖や不安を描く文学において、混沌そのものよりも、むしろ、整然とした秩序の中に潜む不穏さの方が、読者に強い不気味さを与えることは、しばしば指摘される現象です。無秩序な暴力には、どこか人間的な衝動性が感じられますが、冷静に計画され、几帳面に記録された暴力には、むしろ、人間性から切り離された、機械的な冷たさが漂います。サドの筆致が持つ、この奇妙な冷静さこそが、読者を最も落ち着かない気持ちにさせる要因なのかもしれません」


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ここまで、シリング城という「閉ざされた世界」が、どのように作られていったのかを見てきました。地図の上に存在するようで、完全には特定できない城。外界との接続を断ち切るために、周到に準備された隔絶空間。そして、物資や人員、脱出経路までを細かく管理する、異様なまでの計画性。ここまで読み進めると、この城が単なる物語の背景ではないことが、少しずつ見えてきます。

しかし、ここから先は、視点をさらに一段階引き上げます。そもそも、「外界から隔絶された空間を作り、その内部で人間を観察する」という文学的な仕掛けは、サドだけのものだったのでしょうか。ここからは『デカメロン』をはじめとする文学史の系譜、ゴシック小説、密室劇、そして後世の演劇へと視野を広げながら、「閉ざされた空間」という文学的装置そのものについて考えていきます。

さらに、その先にはもう一つの問いがあります。なぜ文学は、何度も何度も「逃げ場のない場所」を必要としてきたのか。なぜ人間は、社会から切り離された瞬間に、物語の中でその本性を試されるのか。そして、シリング城という閉ざされた空間は、作者マルキ・ド・サド自身が置かれていた「牢獄」という現実と、どこまで響き合っているのでしょうか。

ここから先は、「シリング城」という一つの舞台を読む話から、「密室」という文学そのものを読む話へ。そして最後には、次夜のテーマである、公爵・司教・大統領・銀行家という四人の「権力者」へと話が繋がっていきます。ここから先も、ぜひ禁書のページをめくってみてください。

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