―戦後サブカルチャーとしての発展と定着―
1. 戦前までの背景：緊縛と官能の美学

日本における「SM（サド・マゾヒズム）」の概念は、欧米由来の心理学的用語として明治期に紹介された。しかし、その根底にある「束縛」「支配」「服従」といった感覚は、日本独自の文化にも古くから存在していた。
江戸期の浮世絵師・喜多川歌麿や鈴木春信の春画には、縛りや拘束をモチーフにした描写が見られ、緊縛（しばり）は単なる性的表現にとどまらず、「美しく縛る」こと自体が美学として成立していた。
武士文化における「捕縄術（ほじょうじゅつ）」や「責め具」などの技術もまた、後の緊縛文化の土台となったと考えられている。