2025-10-15 22:43チーズとウジ虫

メノッキオが考える宇宙の成り立ちは即ちチーズ。
「牛乳が凝固してチーズになるように、世界はカオスが凝固して成ったものであり、チーズからうじ虫が生まれるようにして、天使が生まれ、神もそんな天使の中の一人であった」
メノッキオの語る宇宙観や神観は、16世紀にはほとんど聞かないような考えでした。
異端審問官は、異端の神学にも通じたプロフェッショナルです。
彼らさえ聞いたことがないような説が、メノッキオの話には混入しており、独特の世界観でした。
記録によれば、審問官たちも判断に困って、無理やり従来の異端の型に当てはめて、彼を理解しようとして四苦八苦させられたそうです。
ちなみに、『チ。』でも描かれていましたが、異端だからといって即、異端審問にかけられるわけではありません。
カトリックの場合、煩雑な手続きを経て異端審問にかけられます。
メノッキオの考えは、彼がいくつかの書物から得た知識や、異端から聞かされた話を独自解釈して生まれた、「俺の考えた最強の宇宙論」でした。
例えば、禁書でもない世界旅行記に描かれた非キリスト教の文化や信仰を知って、
「彼らはキリスト教を知らないだけで、知らないというだけで最後の審判で救われないのは可哀想」
という理屈で受け止めました。
そして、異なる信仰を持つ理由をそれぞれの国にあった教えを神は与え、みな一様に救われると考えました。
そして、彼は神父がキリスト教でしか救われないと説いているのは、自分たちの商売としてそう言っているんだと解釈し、それを人々に語り出しました。
メノッキオのオリジナルな神学は、多岐にわたりました。
彼の思想を支えるのは、庶民ゆえのリアリズムからでは?と考えられています。
メノッキオの考え方は異端でありながら、リベラル。これはある意味、「庶民」だからこそ信仰が揺らぎやすいのかもしれません。
では、メノッキオの歴史的な意義とは何か。
歴史学では、しばしば「教養とは、上流階級から庶民へ降りてくるものである」と考えられます。
歴史学はあくまで文献史学なので、書物が絶対的なんですよね。
ただ、このようは一面的でしかなく、実際にはその時代を生きる、その他大勢がたくさんいます。
彼がどのように考え、動いたのか。
端に文献として残っていないだけで、実際にはメノッキオのように極めてリベラルな考えを持った人物が、ルター以前にもいたことを示しています。
1950年以前の歴史学では、ほんの少ししかない記述が、殊更権威を得ていました。
けれどもある一面だけで論じるのは違うよね、と見直されるようになり、ある意味ギンズブルグのメノッキオのその一人だろうと思います。
メノッキオのチーズとウジ虫。とても面白いのでぜひ読んでみてください♀
でも、ウジ虫から湧いた世界、それは嫌だなあ